読書感想文


20110404 //
20110503 //
20110518 //
20110616 //
20110824 //
20111108 //
20111208 //
20120124 //
20120211 //
20120222 //


20110404 //

■「ヴィヨンの妻」
太宰治の中編小説。「人間失格」「斜陽」と並んで一、二を争う太宰作品の中でも「暗い作品」なんだとか。
映画を先に見、原作を読みました。新潮文庫のものを読んだのですが、生と死を扱ったものが他にも数編収録された短編集になっておりました。
「ヴィヨンの妻」なのですが、著名な作品の割に、これといった特徴があまりないような。太宰の半自伝的小説の中のひとつ、短編のひとつ、としてしまっても良いようなボリュームや話の内容なのに、なぜか不動の地位を確立しているようにみえるのは、同名の映画やドラマがたくさん生み出されているからなのでしょうか。映像に移植しやすい内容なのかも知れん。色々なレヴューを見る限り、やけに絶賛されているけど、個人的にとりたててフィーチャーするようなものはないと思いました。未婚だからでしょうか。「人に尽くす女が美しい」だなんて思えない……。
「トカトントン」「家庭の幸福」は納得できる面白さ。トカトントン、日常生活でたまに使います。「就活トカトントン」とか(死んだ目)。

■「どんぐり姉妹」
よしもとばななさんの小説。「姉妹」のタイトル通り、主人公はどんぐり姉妹の妹のほう。
日常にある些細な束縛、友の死、人生の陰の部分がどんぐり姉妹のほのぼのとした現在と、絶妙なケミストリーを起こしてます。ただ、「どんぐり姉妹」というWEBのネタとリアルでおこっている出来事との関連はやや薄いように思います。物語の続きが気になる終わり方。

■「愛しあう」
ジャン・フィリップ=トゥーサンの小説。今回は我が国日本が舞台です。
トゥーサンはかなりの親日家らしく、来日数は数え切れないほど。日本人として嬉しいな。
物語の舞台は居候している友人宅に近い場所だったので、より身近に物語の中に入っていけました。
うーん、でも「浴室」や「カメラ」のような衝撃は受けなかったかな。日本人が読むと、トゥーサンの描いた日本と現実の日本の微妙な矛盾が見えてしまう。そこが微々たるものでしかないのは、さすがトゥーサンと言うべきですが、日常の何も起こらない場面を詳細に書いてゆくトゥーサンらしくない小説(特に京都の部分。空想っぽくなってる)だと思いました。
海外視点の似非和風チックな感じはないし、違和感も日本に住んでいる人しか感じないような微々たるものなので、外国に住んでいる日本ファンにはおススメしたい一冊。
正しく日本が認識できるよ。忍者は出てきません。

■「長い廊下のある家」
有栖川有栖の本格ミステリー。今回も火村英生と有栖川有栖コンビの推理が冴えわたっています。
有栖川有栖さんの小説は、人間のちょっとした勘違いから生まれる謎をよく取り上げている。読者が推理できる余地を残した親切なミステリーだと思います。
今回、一番白熱したのは巻末に収録されている「ロジカル・デスゲーム」。毎度、一冊に一回は肉体的窮地に立たされている火村先生のおかげで、現在進行している犯罪をドキドキしながら推理できます。登場人物のせりふを詳しく書くことで虚言や言い訳が嘘っぽく見えない。

■「小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所」
こち亀のオムニバス小説。推理小説界の人気作家さんたちが、毎度おなじみの両さんと愉快な仲間たちを動かします。執筆されているのは、大沢在昌、石田衣良、今野敏、柴田よしき、京極夏彦、逢坂剛、東野圭吾。自身のシリーズ小説のキャラクターと両さんを共演させている方もいます。こち亀の世界観は残しつつ、自分の世界を融合させる、その堺がどの作家さんも絶妙です。
どれも面白かったのですが、中でも京極夏彦さん、今野敏さんの小説が好きです。京極先生の書く大原部長のノリが楽しめたのと、今野先生の書く文章が読みやすかった。お二方の違う小説も読んでみたいです。
ちなみに京極先生の「魍魎の匣」は家にあります……毎度ながら彼の先生のご本は鈍器にもなりますね。
東野圭吾さんの「目指せ乱歩賞!」はなんというか……作者のシニカルを感じる(笑)




20110503 //
■「さらば、愛しき鉤爪」
エリック・ガルシアの恐竜ハードボイルド第一弾。
――おれの名前は ヴィンセント・ルビオ。ロサンジェルスが根城のケチな私立探偵だ。(あらすじより)
紹介文に惹かれて買いました。ハードボイルド臭はんぱない。
恐竜ハードボイルドと聞いて、主人公の性格が恐竜じみているのか、ニックネームなりコードネームなりが恐竜に関係するものなのか、と色々な妄想をしていたんですがものすごく斜め上を行く展開。
人間の皮膚を被ったマジモンの恐竜さんが大活躍するお話なんですよ。この設定、すごい。
内容は、まあハードボイルドにありがちな、殺された相棒の復讐劇に裏(恐竜)社会の掟がからんできたり、ナイスバディな女の子と燃えるような一夜の情事があったり、セオリー通りに進みます。好きな人は好きな展開が目白押し。
わたしもなんちゃってハードボイルドを書いているので、すごく楽しめたし参考になりました。日本語訳もセンスある。
シリーズもので三冊程刊行されているようなので、時間が空いたら読んでみようと思います。

■「夏の入り口、模様の出口」
川上未映子さんのエッセイ集。週刊誌に連載されていたそうで、三ページ足らずのエッセイが二十編ほど入っています。小品なのでとても読みやすいし、言葉遣いが独特。
普段わたしたちがなんとなく受け入れてしまっている世の中の不自然なアレコレに、川上さんのキレの良い日本語が「待った」をかけます。内容的には特に衝撃を感じるものは少ないんだけれど、何より言い回しが個性的だから、つい読み進めずにはいられない。勢いのあるご本。「トカトントン」なるタイトルを見つけて、川上さんの太宰好きは筋金入りだと思いました。

■「腹の蟲」
佐藤洋二郎さんの小説。普段は、純文学の中でも何かしら話の盛り上がりがある、エンタメ要素の入った純文学を好んで読んでいるのですが、この本を手に取った理由は……聞くな、聞いてくれるな。
これぞ正しい日本語という印象。中年男性が主人公で、彼が抱える人間関係も問題もその年まで成長しないときっと理解できないだろうなと思いましたが、読みやすかったです。でも、やっぱりよく分かんなかったなー。難しいです、わたしには。

■「燃えるスカートの少女」
エイミー・ベンダーさんのデビュー作。帯の紹介文は嶽本野ばらさん。野ばらさんがおススメしているのなら、と思って読読。
ガーリーな幻想小説。登場人物が何事もなく、おかしな出来事を処理していく小説が好きなので、とても楽しく読めました。
主人公はほとんど女の子なんですけど、女の子の目線から見た「性」というテーマが強烈に浮かび上がって気持ち悪いくらいでした。性の他に母子の支配関係、嫉妬、絶望……女性を取り巻くドロドロとしたテーマが、お菓子のように可愛らしい幻想の中にくるまっていて、恐しい小説だけど、素敵だなあ。久しぶりに読了後メランコリックになるお話ばかりでした。女子にはぜひ読んで欲しい。良い小説です。
訳があまり良くないのが球に傷。ティーンエイジャーの女の子が「セックス」を「おまんこ」っていうかなあ……。

■「風の歌を聴け」
村上春樹のデビュー作。春樹研究の授業課題でした。やっぱりこの作家さんの本はすらすら読めちゃう。好き嫌いは置いといて、読ませる小説だと思います。音楽を聴き終わったあとのような、リラックスした感じになる。初期作品のうちにこもっている孤独な感じ、わたしは好きだな。


■「蠍座」
石井ゆかりさんの蠍座の人の特徴を記した占い本。友人宅に置いてあり、わたし自身も蠍座なので借りました。西洋占星術や数秘術がとても好きなので楽しく読めました。
バーナム効果かもわからないけれど、とっても当たっている気がする。蠍座は相変わらず、執念と情熱と陶酔でできている星座でした。いつかさわやかになりたいね。
石井さんの文章はとても柔らかで優しい印象があって好きです。語りかけてくるような感じ。
シリーズ化されているので、星座占いが好きな方はぜひ読んでみてください。ただ、どの占いに関しても言えることなんですけど、あまり信じ込みすぎずに、遊び感覚で臨んだ方が良いと思います。著者・石井ゆかりさんはHPも運営していらっしゃるそうですので、リンク貼っときます。ここだけでも十分楽しめるよ。
筋トレ



20110518 //

■「英国庭園の謎」
有栖川有栖の本格ミステリ短編集。主役はもちろん、火村助教授とアリスです。有栖川さんの本は国名を題材にしたものが多いんですが、エラリー・クイーンの国名シリーズをもじったものらしいです。最近知りました。
五十枚前後の短編が六作品入っており、空いた時間に分割的にさくさく読めちゃう。どれも手の込んだ素敵ミステリですが、中でも「ジャバウォッキー」がお気に入り。犯人の名前がユニークなのと、追跡捜査の体をとっているので臨場感をもって読み進めることができました。有栖川さんは本当に鉄道関係の謎かけが上手い。毎度おなじみ火村&アリスのやりとりも見ものです。シリーズを追うごとに、火村先生のフィールドワークがあんまり秘密裏でなくなってきてるのも時間の進みを感じさせていてリアル。
「火村英生に捧げる犯罪」ではついに犯人から火村先生宛てに犯行声明まで届きましたよね。

■「もしもし下北沢」
よしもとばななの下北沢を舞台にしたヒューマン・ノベル。主人公はわたしと年の変わらぬ二十代ということで、たくさん感情移入して読めました。ばななさんのご本に出てくる女の子、特殊な環境で育ってきた子が多く、全てを終わったこととして語る(そこもまた魅力の一つなのですが)タイプが多いんだけど、今回の主人公・よっちゃんはわりと平凡な家庭に育った普通の女の子。成長途中という感じだったので、他の作品に比べるとよりキャラクターを身近に感じられたような気がします。

■「1973年のピンボール」
村上春樹のデビュー二作目。授業課題だったので読みました。とても良い機会だったと思います。
前作の「風の歌を聴け」よりもより小説らしいお話になっていて、少し型にハマり過ぎているかなとも思いましたが、読了感は清々しかったです。内容も僕と鼠の精神の再生を予感させる、爽やかなものでした。「風の歌を聴け」は専門的な考察がないと理解するのが難しいなあと思ったのですが、この話は音楽の予備知識や精読がなくても楽しめる。物語の背景を知ればもっと楽しめる、読み応えある本だと思います。
作中には双子が出てくるのですが、彼女らはピンボールの象徴なのでしょうか。読んでいてなんとなく。

■「神の子供たちはみな踊る」
2000年に出版された村上春樹の短編集。全編を通して阪神大震災を下敷きにしてあります。社会にコミットしてるなあ。
ストーリーはかなり上手いし手慣れた感じがするけど、個人的にはあんまり好きな短編集じゃなかった。「蛍、納屋を焼く、その他の短編」と違って、リアリズムを意識した作品が多いと思いました。登場人物たちにもちゃんと名前があります。デビュー作らへんにあった独特のオサレな雰囲気は少ない。
阪神大震災に少し触れているから、あえて非現実な展開を抑えたのかな、と勝手に解釈。「タイランド」が好きです。頭では認識できないような世界、シャーマン的な要素が含まれているお話が好きだなあと改めて思いました。
起承転結がはっきりしてて、言いたいこともあまり隠しだてしないで書いてくれている親切なお話なので、読了感はすっきり。

これ、映画化もされてるんですね。ググったら公式サイトがでてきました。
http://kaminoko-movie.com/




20110616 //

■「白い兎が逃げる」
有栖川有栖の短編集。アリスらしいタイトルですね。
冒頭の有栖川さんのお言葉通り、電車の時刻表にちなんだトリックが多いですが、電車マニアでなくてももちろん楽しめる。毎度はっとするトリックが目白押し。火村教授の推理も冴えわたります。思うのだけど、火村先生の推理ってハズレたことないよね。失敗談って聞かない。
探偵小説はところどころ独り言のようなセリフがあったりしますが(それが読者へのヒントになっているのだけれど)、火村先生の場合は頭の中で熟考しまくっているようなので、読者へのヒントは少ないように感じます。だから誤解がないのかもしれない。タイトルにもなっている「白い兎が逃げる」がお気に入り。

■「海松」
みる、と読むそうです。稲葉真弓先生の短編集。気になって読みました。
ところどころ女性らしい比喩が多く用いられており、とても読みやすかったです。「女」を感じさせる小説でした。自然の生と女性の生。
最後のお話を除き、ほかは海辺が舞台となっているのですが、読んでいるうちに海の音を感じさせるくらい、のびのびとした良い小説でした。

■「羊をめぐる冒険<上>」
村上春樹の青春三部作の三弾。授業課題だったのですが、楽しんで読めました。デビューから二作目まではリアリズムを追求したような作品でしたが、ここで雰囲気は一変して、探偵小説。レイモンド・チャンドラーの探偵小説を参考にしているとか。そういえば、村上春樹のチャンドラー翻訳が話題になったよね。
「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」でなじみ深いキャラクターが今回もたくさん出ている。僕と鼠の行く末が気になります。読みやすいのでぜひ。

■「羊をめぐる冒険<下>」(※ちょっとネタばれしてます。読み終えた方は反転で)
羊をめぐる冒険・下巻。羊探しに乗り出した「僕」の驚きの結末が。三部作で取り上げていたキャラクターたちの問題がここで一挙に決着がついたように思います。このお話では「僕」よりも「鼠」の存在の方が大きく浮かび上がっているのではないでしょうか。
「風の歌を聴け」で色々なことを豪語していた鼠も「1973年のピンボール」で色々な物をすり減らし、「羊をめぐる冒険」では解放とも破滅ともつかないラストを迎えています。わたしはこれを解放と読み取ったのだけれどどうだろう?
とにかく鼠はイケメンだった←

■「ブラジル蝶の謎」
有栖川有栖の国名シリーズ第三弾。今回も火村&アリスの名コンビが事件解決に挑みます。相変わらずこのお方の書く小説は読みやすく、ひとつひとつの短編が純粋にトリックを楽しむものでおもしろい。たまに犯人の動機や人間関係が薄かったりもしますが、本格ミステリーなんだから良いのではないのん。
中でも「妄想日記」がユニークで面白かったです。最後の短編は時事にも触れていて少しウルッとくる。

■「わがままなやつら」
エイミー・ベンダーの大人向けファンタジー(?)二作目。一作目の「燃えるスカートの少女」がとても面白かったので読みました。二作目は一作目よりも上手くまとまっていて、作品の意図が読み取れないということはありませんでした(一作目は少しだけあったんだよね、わたしの読書不足のせいなんですが)。
空想と現実が入り混じったお話が好きなので彼女の書く小説はとても好みに合っています。中でも「マザーファッカー」、「アイロン頭」、「鍵」がお気に入り。
「鍵」なんて今度書こうと思っていた自分の小説と設定がまるかぶりしていて「あらら……」って思いました(笑)エイミー・ベンダー、好きだ。
ただ空想小説の割に作者の意図があまりにも全面的に押し出され過ぎている作品もありました。ここまで書き過ぎなくても読者は分かってくれてるんじゃないかなーと思うところも。
とにかく幸せになれる小説。発想力が素晴らしいです。

■「キッドナップツアー」
角田光代の児童小説。授業で紹介されていたので読みました。大人も子供も楽しめる小説とはこのことを言うのでしょう。あくまで女の子の視線から思ったこと感じたことを書いていますが、それだから大人の思っていることや意図がより鮮明に浮かび上がってくるのだと思います。ハルの叔母のゆうこちゃんのエピソードなんて、年を重ねて経験を積んでみないと分からない。
ラストも素敵だった。

■「世迷いごと」
マツコ・デラックスの芸能人批評書。お値段がお高めだったので数回に分けて本屋で立ち読みました(すいません、学生金ないんです;)。立ち読みで全部読めてしまうほど、この人の批評には冴えるものがある。
ゴシップネタなんかが多いのですが、この本に描かれている女性芸能人の生きざまなんかが自分たちの生き方の指南書のようにも読めて大変勉強になりました。高島彩アナの項はすごく面白かった。
マツコさんがTVで言っている内容も多かったのですが、保存版として、お金に余裕がある人は買ってください。面白いので。

■「パッチワーク」
嶽本野ばらさんの初期コラム。本をデパートメントストアに例えて、お洋服や恋愛相談など、女の子の気になる話題を余すところなく取り入れています。野ばらさんの文章はすっと体にしみこんでいく感じ。初期のご本でもとても読みやすいです。女の子の生き方なども取り上げられていて、実践できるかどうかは別としても、なるほどなあと納得できました。野ばらさんの博学さが本の端々にあらわれていて、さすが。野ばらさんはお洋服だけではなく哲学や心理学、ありとあらゆる知識を持っているのだなあ。




20110824 //

■「狂人日記」
ゴーゴリの中編小説集。「ネフスキイ大通り」、「肖像画」、「狂人日記」の三編が収録されています。
なんとなーく、題材に惹かれて買ったんですが、訳が良かったらしく読みやすかった。どの小説も人間の陰の部分が、さまざまな比喩を駆使しながら緻密に描写されていて、おどろおどろしかったです。
いかにも物語染みた「肖像画」が好き。構成が工夫されていて話の筋が掴みやすく、ラストシーンも奇奇怪怪としてい、読了後も想像をかきたてられるお話です。この人の書く小説は演劇にしやすそう。

■「厳父の作法」
色々な諸事情のために読んだ小説(笑)普段新書版はあまり読まないので、まず紙の大きさが新鮮に感じました。
内容は、正直言ってあんまり同意できないものが多かったです。現代日本社会のたるみを団塊作家が厳しく一括、というようなものなのですが、説教くさい……。
言いたいことはわかるし、どう見ても正しいことを書いているのですが、今の時代では実践するに難しい道徳。少し回顧主義的にも思えましたし、独善的にも思えました。首をひねった。

■「ダンス・ダンス・ダンス(上)」
村上春樹の長編小説。「羊をめぐる冒険」の続編にあたります。時間軸は「羊をめぐる冒険家」から四年後くらい。前作の探偵小説の作法を踏襲し、また村上さん得意のマジックリアリズムの手法も端々にうかがえます。物語の主軸からぶれなかった前作に比べ、こちらはなんだか右往左往、主人公が翻弄されているような感じ。
「踊るんだ。踊り続けるんだ何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。」という羊男のセリフ通り、様々な場所で主人公がくるくると踊りまわっている感じ。あまり「熱中して読み込む」という小説ではないのですが、相変わらずふろしきの広げ方が魅力的な小説なので続きは気になります。

■「ダンス・ダンス・ダンス(下)」
村上春樹の長編小説。キキという女性の面影があちらこちらに現れ、物語は中盤から急速に動転します。
「羊をめぐる冒険」にも見られた、ラストシーンでの完全に現実と非現実が合致したような、ピントのぼやけた空間での登場人物たちの会話シーンが好きでした。
この作品は青春三部作に比べると、作者の執筆の間隔も空いているし、前者から踏襲しているのは登場人物の名前くらい、三部作とは全く色を異にした作品だと思うので、わたし的にはあくまで「番外編」というか、人物の良く似た別世界の位置づけでいます。三部作で散々な目にあっている主人公に救いを、というところでしょうか(実際に作者もそのようなことを述べているし)。
あまり三部作と本編を関連付けて読むことはおすすめしません。上巻から繰り広げられた謎を完全に回収していないところもあるくらいなので、なおさら三部作で表面上明かされていなかった答えというか、補足説明は全く取り上げられていません。三部作でも個々に展開されていた謎は次巻に持ち越されることもありませんでしたよね……。
ただ、ちょっとでもそれを期待するところがあっただけに、読後感はあまり釈然としなかったなあ。
三部作のオマケ感覚で読んだ方が納得できる。

■「シャーロック・ホームズの復活」
ハヤカワ・ミステリ文庫版で読みました。この本に収録されている作品の半分ほどは電子書籍で読んでいたのですが、著書の発表順に読み進めていった方がシリーズ全体の流れとしてつかみやすいかなと思ったので。
実際のところほとんどの事件は、ホームズが農場にひきこもった後にワトソン君が記録として発表するという形式で書かれているため、物語の全体の時間軸を把握することはできないみたいです(コナン・ドイルの研究書を読めば別だけど)。
中でもおもしろかったのは「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン」。冷静沈着、理性の塊のようなホームズの動揺ぶりがとても人間らしい。ちょっと微笑ましい気分になります(事件は悲惨だけど)。

■「ドリームタイム」
田口ランディさんの短編小説集。初の田口さんです。前々から友人にすすめられていたのですが、悪癖の「読まず嫌い」が出ておりまして長い間手をつけていませんでした。
いざ物語に触れてみると、これは面白いとしか言いようがない。エンターテイメントの傑作というか、「オカルトなエロス」ですか、俗世を越えた先にある世界の出来事をテーマに取り上げているらしく、とても自分の趣味に合う小説でした。オカルトっぽい小説というと吉本ばななさんの初期作品や朱川湊人さんの初期作品が思い当たるのですが、田口さんの作品は両者とはまた違い、こちらは現実世界からオカルト世界に対峙している小説。主人公は幽霊や風水なんかを否定しているしね。どの話も楽しく読めましたが、中でも「シェルター」がお気に入りです。開始早々度肝を抜かれた。

■「阿Q正伝・狂人日記」
中国の作家、魯迅が描いた小説集。この人名前だけは知っていたんですが、ちょうど大学の先生からの勧めもあり、「阿Q」というユニークな名前にも惹かれて読みました。「阿Q正伝」はエピソードの一つ一つが滑稽で面白く、アメリカンカトゥーンのようなミニマム化した個性派キャラが印象的。主人公の阿Qとチンピラがお互いに辮髪(べんぱつ)を引っ張り合うシーンは漫画のようでとても面白かったです。
他に「故郷」という作品が好きでした。こちらは「阿Q正伝」とはまったく違った作風で、子ども時代に仲良くしていた従兄が長い時を経て再開したところ、身分の差の問題や経済問題からやがて疎遠になってしまうというもの。青春時代の終わりを感じさせる切ないお話です。




20111108 //

■「人生論ノート」
三木清の人生指南書。このお方は昭和に生きた哲学者、治安維持法に違反して投獄された先の刑務所でお亡くなりになったそう。生前はマルクス主義を支持していたそうなんですが、これも政府の圧力によって思想を変えなければならなかったとか。
「幸福について」、「孤独について」など人生につきまとう様々な概念をいくつかの項目に分けて分析し、彼なりに論じています。難しい表現が多く、なかなか読みすすめられなかったのですが、内容は納得できるものが多かったです。中でも「怒について」と「利己主義について」が共感できたような記憶が。もはや記憶……orz
哲学書なので中々読解が難しく、こちらの電子書籍でもう一度読み直して見ようと思います(汗)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000218/files/46845_29569.html

■「テレヴィジョン」
ジャン・フィリップ=トゥーサンの小説。今度の主人公は、テレビを見るのをやめます。トゥーサンの小説の主人公に関しては色々な解釈ができると思うんですが、わたしは「浴室」から主人公は一貫して同一人物ととらえています。「浴室」では二十代だった主人公も、もう四十路のおじさん。妻も子供もいて、仕事もあります。テレビは社会を象徴する文明の利器、それを見なくなった主人公は未だ社会に対して反発心を抱えているのかな。前作まではどことなく感傷的だった彼も、禿頭や隣人に関する悩み事や研究職のこと、性欲のことなど、書かれているエピソードがとても具体的で人間的。「カメラ」「ためらい」のような青春のメランコリーはあまり感じられない。
今までのトゥーサン作品とはまた一味違う、ヒューマンライフ小説ともいえる爽やかなお話です。

■「蛇と月と蛙」
田口ランディの短編小説集。田口ランディにどっぷりハマっている天野ですが、この人のお話は人間の負の部分というかエロスとタナトスをダイレクトに表現してくるので読了するのに体力使います。人間のタブーとされている題材をあけすけに開示していく手腕は相変わらず度肝を抜く。
最後の「蛇と月と蛙」は数個の短編から連なっている小説なんだけど、どれも宇宙的な人間のつながりを感じさせる、神秘的なお話ばかりです。好きだな。
■「ドグラ・マグラ(下)」 夢野久作、不朽のミステリー後編。これの上巻を一年前くらいに読み終わっていたんですが、なかなか下巻に手がつけられませんでした……上巻でふろしきを広げ過ぎていて、ちゃんと伏線回収できるのかよっていう疑惑が根づいてしまったので。
しかし、そんな心配は御無用。上巻で語られたありとあらゆる謎を正木博士がわずか二ページで謎解きしてしまいます。謎がすっきりと紐解かれていく様はとても痛快。それにしても変な本だなあ。研究論文がたくさん出ていそう。




20111208 //

■「シャーロック・ホームズの叡智」
シャーロック・ホームズの短編集。
実はこれ、訳者さんがページの都合上、他のホームズシリーズに入れられなかったエピソードをまとめた日本のオリジナル短編集なんだそう。「技師の親指」は漫画版で読んだ気がするのですが、ワトソン博士と技師の出会いのシーン、医術処置のシーンはリアルなだけにグロテスク。医師であったドイルにしか書けない文章だなあ。ドイルの小説の魅力の一つはワトソンの医学的な死体描写にあると思う(技師、死んでないけど)。

■「ノルウェイの森(上)(下)」
村上春樹のリアリズム小説。作者本人も恋愛小説と銘打っている代表作。研究課題だったので読んでみました。
社会問題にもなっている精神病をあくまで健全な男性の目線から繊細に描かれていて、またどんどん崩壊に向かっていく直子の台詞が何気ないながらも一つ一つ胸に突き刺さる。ファンタジーな世界を得意とする村上さんですが、今回は魔術的要素がなく、推察しながら読むというよりは心で感じるお話です。巧みな構成で、ぐいぐい読み進められるのですが、「読んでいて楽しい・元気になる」といった小説ではないので、読み手側の精神が健全なときに読んでください。
落ち込んでいるときにこの小説に救いを求めようとすると体調を崩します……。

■「遠野物語・山の人生」
柳田國男の東北地方にまつわる伝承をまとめた「遠野物語」。山にまつわる伝承をまとめた「山の人生」。どちらとも伝聞調で語られる「信じようと信じまいと…」系のお話です。今でいう2chのオカルトスレに近いものが。
民俗学が好きの定番書、妖怪マニアにもおすすめ。文章も読みやすく、風化される言い伝えを書籍として保存した、価値の高い作品でもあります。座敷わらし、雪女、大猿など、「遠野物語」は「地獄先生ぬ〜べ〜」でネタにされているものが多かった。

■「死者の奢り・飼育」
大江健三郎の初期短編集。大学で拾ったので読みました。大江健三郎さんは明治文豪のような難しい小説を書く人というイメージがあったんですが(なぜだろう。名前のイメージからだろうか)、この小説は子供や大学生の視点から書かれたものが多く、文体も洒落ていて読みやすかったです。普遍的な言葉づかいだ。
死体の知識や大人の話の分からない主人公の心理・描写から、その裏に潜む人間のエゴ・本人までもが気づかない心根の人種差別的が読み手側に伝わってくるからすごい。簡潔に説明できない人間の心理を主人公の置かれた環境・設定を使ってじわじわと読者に分からせていく(「人間の羊」)。ストレートに表現しなくても伝わる筆の運びがすごい。

■「ジュージュー」
よしもとばななさんの小説。最近のよしもとさんは食の小説を良く書いているなあと思うのですが、このお話も食べること=生きることというように、ダイレクトに体の中に入ってくる生のエネルギーをステーキ屋さんの美味しそうなハンバーグ描写とともに描かれています。読んでいてお腹が空く小説。
ただ、最近のばななさんの小説の人物関係は予定調和な感じが否めないんだよなあ……好きなんだけど。波乱の時代、人生の苦しかった時期を乗り越えた人たちが手にした平和・前向きに生きよう、というノリの小説が多い気がする。
事件の渦中ではなく、色々なものが過ぎ去ったあとから語り始めるスタイルは昔から一貫していて好きなんですが……「ジュージュー」はひたすら美味しそう!っていう以外にあまり味わいが感じられなかった。

■「ガラスの街」
ポール・オースターのニューヨーク三部作の一つ。孤独に暮らす三十歳の小説家のもとに探偵依頼の電話が……っていう物語の出だしから素敵な作品だと思いませんか。
あらすじだけ読むとエンタメ色が強いのかなと思うけれどまったくそんなことはなく、主人公の自己存在を追求したかなり文学的なお話。こういうのをストリップストリーム技法って言うのですって。
てっきり探偵小説だと思っていたし、話の中盤までは探偵小説のスタイルに則って進むんですが、途中から現実と空想が交錯し始めて主人公も読者も一種錯乱状態に陥ります。主人公の探偵=自分として読んでいくといきなり宙に放り出される。最後の読者が手持無沙汰になる感じが他の小説ではあまり見かけない。結局この話はなんだったのか、と作者に問いかけたくなる。洒落た装丁と相まって、とても面白い小説でした。ポール・オースターと訳者の柴田元幸さんのファンになりそう。探偵小説を好む好まざるにかかわらずおススメです。

以下、感想に加えて、ちょっと自分なりに推察したこの小説の裏に仕組まれたことを書いてみるので、「ガラスの街」読了された方は反転どうぞ(ネタバレ有です)。恥ずかしいのであんまりジロジロ見ないでください。

このお話は結局スティルマンが息子に殺意を抱いていたのかどうか、「犯人」らしきものはスティルマンであったにしても真相が明かされません。そこがまたこの小説の魅力的なところだと思うんだけど、「犯人」をあげるとしたら作中のポール・オースターなのではないかな、と思います。根拠としてはオースターが主人公・クインに話した「ドン・キホーテ」の研究。狂人のドン・キホーテを元に戻そうと登場人物たちがドン・キホーテのトンデモ英雄伝を本にしてドン・キホーテに読ませることで彼を正常者に戻そうとする。しかし、ドン・キホーテは実は狂ってなどいなくて、トンデモ話を客観的に誰かに書かせようとして狂ってトンチンカンなことをしていたというオースターの研究論文に当てはめると、ドン・キホーテの本=クインの赤い手帳になると思うんですよね。そうすると、あの探偵依頼はすべてオースターの仕組んだこと、クインの手帳を基に客観的に描かれた物語を作りたかったのかな(結局、この話の語り手はオースターの知り合いだと、最後になって明かされるんですけども)っていう読みもできると思うんです。
この話は探偵小説の枠を借りた不条理小説なので、解決できないんですけどね……。

■「国境の南、太陽の西」
村上春樹の恋愛(?)小説。研究の課題だった。
第一印象が「この人、不倫小説書くんだー」という感じ。不倫小説といっても、その奥には作者の色々な思惑が隠されているみたいなんですが、新鮮な設定に惹かれて何も考えずに最後まで読んでしまいました。というよりも、不倫小説という定義で読んでしまっても良いのではないのん?
ジャズバーに夜の空気に生と死と性、村上春樹の雰囲気がたくさん詰まっていますが、他の作品と違うのは主人公が昔から愛していた音楽に興味を失い、本当に社会にそぐった大人になってしまうところ。今まで読んできた村上作品の主人公の中で始くんが一番不幸な男なのかも知れないな。

■「ツナグ」
辻村深月さんのファンタジー小説。生の世界、死の世界の境界線を哀しく描いた作品。生きているうちに一度だけ死者と面会をさせてくれる使者の少年、依頼者四人の生者たちのエピソードが個々に分かれていて読みやすいお話です。死者と対面することによって救われるお話が多かったので少し退屈したんですが、死者と会うことで必ずしも幸せになるわけではない、後ろ暗いエピソードも加わって、中盤から加速します。
ツナグのルールもおもしろかったけれど、そのうちの「死者に断られたら面会を許可できない」という掟が全く使われていなかったので残念。死者に会うだけでなく死者がなぜ断ったのか、誰が先に死者に会ったのかという生者側の人間模様があっても面白いなあって思いました。この設定、色々な使い道があるよね。ドラマや映画にしても面白そう。




20120124 //

■「謎解きはディナーのあとで」
時勢の波に乗りました!東川篤哉さんのお嬢様ミステリー。ミステリーというかキャラモノです。
最初のエピソードは、キャラクターもぱっとせず、ミステリネタも無理があるような気がしました……掴みはあんまりよくない。二話三話と読んでいくうちにキャラクターがしっかりしてきて、ギャグのレベルも高くなってくる。
ミステリーの内容は少しありきたりに感じますが、それをキャラクターがカバーしてる感じ。

■「ねじまき鳥クロニクル」
村上春樹の長編小説。村上作品が「デタッチメントからコミットメントへ」切り替わるきっかけとなった作品らしいのですが、確かに作中で今までに見かけなかった戦争への言及が見られます。コミットメントってそういうことかー。
ノモンハン事件を下敷きに、徹底した取材力を感じる作品なのですが、だとしたらモンゴルの皮はぎ名人は実在したんでしょうか……怖いなあ。
実験的で緻密な小説だと思うのですが、作中で明かされなかった点が多すぎて、わたし的にはいま一つ呑み込めなかった作品でした。なんとなく伝えようとしていることは分かるのですが、天野の読書レベルが追いつきません。無念。

■「尾崎翠」
群ようこさんの尾崎翠の伝記的解説本。尾崎翠が少女小説家から「第七官界彷徨」という大作を書くにいたるまでの翠の生い立ちを年代順に追っていきます。群さんの優しい筆遣いが尾崎翠の作品と重なり合ってほっとする。作者の意見を多く交えず、尾崎翠の生き様に追究する姿勢が真摯で素敵。
ますます尾崎翠が好きになったし、群ようこ作品をもっと読みたいと思いました。

■「一人の男が飛行機から飛び降りる」
バリー・ユアグローの短編小説集。まさに夢のよう、エキセントリックな話の連続。わたしの中でちょっとした問題作になりました。意図の分かるものもあれば、まったく分からない話もあって、次から次へとよくこんな話が思いつくな。ちょっと普通の脳みそじゃ考えられないぞ、というとユアグロー氏に失礼かもしれませんが、これは良い意味で。
同時収録された「父の顔をかぶって」は父親に対する憧憬と畏敬と腹の底からの憎しみが混ざり合って狂気のようなものすら感じます。この人の家族の関係において、何かトラウマになるようなことでもあったんだろうか……作者近影はとてもチャーミングなのに。
夢を素材に扱った小説ですが、作者は実際の夢で見たことを作品に反映しないそう。その姿勢も好感がもてるし、見習いたいとも思う。柴田元幸さんの訳も素敵。

■「文学賞メッタ斬り!」
大森望さんと豊ア由美さん、なんともパンキッシュな本読みのお二人が昨今の文学賞と受賞作品について対談形式で語られています。とにかく会話が面白い。
面白くないものは面白くない、良いものは良いとざっくり斬り捨てる様は読んでいて痛快だけれど書き手の視点から見ると大分怖いや。改めて自分の本読みの浅さを思い知らされましたし、それ以上に未読の面白い話が日本にたくさんあることを知って益々読書が好きになれたような気がします。本読みます。

■「読まずに小説書けますか」
小説を書きたい人のためのブックガイド。書きたい小説のジャンルごとに、その先駆になった作品が紹介されています。小説を書かない人でも好きなジャンルに対する見解を広めるための指南書としても良いかも。純文学からライトノベルまで幅広いです。面白い本には変わりないけれど、それ以上に「使える本」。スタート地点。ここから先どのように読書を発展させていくかが問題よね。




20120211 //

■「青年のための読書クラブ」
桜庭一樹先生の中編小説。舞台は女の園、女学園。
桜庭さんの本ってじわじわと沁み入るような性表現が得意だよね。あからさまにしない性の暗喩が高尚にエロい。これぞ耽美派という感じ。今回は男子禁制、聖マリアナ女学院が舞台で、幻想としての男の子がたくさん出てくる。
性を伴わない性への欲望、男子を伴わない女子だけの性。罪深さを少女の可憐さで覆い隠した、美しくも気味悪いお話。ゴシックロマンなのかも知れない。
「道徳という名の少年」と同じように、一話づつ次々と主人公が世代交代していくんだけれど、その年代が持つ雰囲気(70年代のアングラブームや89年のバブル期)をうまく下敷きにして話を構築している。
桜庭さんの根底にはガルシア・マルケス「百年の孤独」が息づいているんだなあ。

■「翼」
白石一文さんの小説。某つぶやきでブームになっていたので読みました。……うーん、全く分からない。
どうして医師の男は主人公の女が好きになったのだろう。それらしき原因が描かれていないのに、フィーリングってこと?
主人公の優柔不断さもおかしい。久しぶりに再会した岳志の猪突猛進ぶりに違和感を抱きつつ、好きでもないのに食事に行ったり家に行ったりして距離を縮めている意味が良く分からないな。モノローグは多いのに行動が突拍子もないせいで共感できない……人間が人間らしくないというか……思想を説明するだけに動かされているというか……。
これは人間的に達観した人たちが読む小説なのかしら。
主人公が上司と話した「人間は死んだらどうなるのか」という会話には頷けるところも多かったけど、ほとんどが観念的でよく分かんなかったなあ。

■「ジョニー・ザ・ラビット」
ハードボイルド小説の型をとりつつ、主人公がウサギ! モフモフで可愛いウサギ! まずそのギャップが可愛くて好き。文体が完全に通俗なハードボイルド調で舞台もイタリアだったから(イタリアの野原だからイタリアっぽくはないけれど)、てっきり翻訳小説と思って読んでいたら日本人作家だった。やたらと日本語+イタリア語のルビが多いと思ったら、ここでイタリア感を出したかったのね。
マフィアが出てくるけれど、舞台には特にイタリアは感じられないな。むしろアメリカの暗黒街のイメージが強かった。ラ・ビッチ(ビッチな兎の意)の造語がやたらと印象に残る。ウサビッチの原型やで……!
お話は特に驚くこともない、探偵小説おなじみの復讐劇だったけれど、キャラクターが可愛くて好き。ラストはもう少し具体的だったら良かったのになあ。あとジョニーの活躍ももっと出てくればなあ。

■「クワイエットルームにようこそ」
松尾スズキさんの小説。芥川賞候補にもなったようで、なるほど、語り口が独特。話も独特。精神病患者のキャラがどいつもこいつも目立っていて良かった。人の名前が出てきた瞬間、「この人はどんなエピソードの人だっけ?」って考えなくて良い。素晴らしい。
映画では最後のシーンに主人公の元・旦那と子供(?)が出てきてそのシーンだけが「?」ってなっていた。小説版ではもう少し具体的に主人公の過去が分かるかと期待していたけれど、相変わらず「?」。主人公の過去・身辺をもう十ページ費やして書いてくれたら分かりやすかったのに、と思うと残念でならない。
笑いのシーンが多いけれど、じわっと来るところは作者が全力で泣かせに来てる。といってもおバカっぽい雰囲気を残したまま、その裏にある主人公の抱える喪失感みたいなものを書かずに書いてる。悲しいことの周りを取り巻くエピソード面白く書いて、削っていくことで、書かれていない悲しみが浮き彫りになっているというか……。
松尾さん、恐ろしい人やでェ……。

■「熊の場所」
噂の舞城王太郎さんの短編集。この人、観察力がすごいなあ。観察力というか記憶力?
「熊の場所」ではよくもこんなに「小学生あるある」が出てくるもんだ。まー君の猫殺しの証拠を掴んでしまった「僕」が、父親の熊のエピソードを思い出して再びまー君に会いに行く。恐怖を感じた場所を恐怖のままに残しておくと一生恐怖が付いて回りそう。恐怖が定着する前に元の場所へ立ちかえって印象を上書きしたい。この心理って分かる。「熊の場所」「バット男」(「ピコーン!」はよく分かんなかった。これは単行本の書きおろしだし、CDでいうボーナストラックって感じなのかな)、文体はあくまで少年目線で意図的にバカっぽくしてるけれど、裏に潜むどろどろとした恐怖が、これまたじわじわ沁み出てきて怖いなあ。松尾スズキは「喪失感」のようなものを浮き彫りにしているけれど、こっちは「恐怖」浮き彫りにしてる。周りを面白おかしく掘って。
ただ、好き嫌いが分かれる小説だと思う。何と言っても、このちょっと下品な語り口。好きな人はすごく好きだろうし、嫌いな人は読むのも辛いだろうと思う。私もどちらかというと好きじゃなかった。話もテーマも上手いし、この人の書く本は読んで絶対損はない(と思う。これしか読んでないけど)。あとは好みの問題だ。

■「ずっとお城で暮らしてる」
シャーリイ・ジャクスンのサスペンスホラー(?)。このお方は「魔女」と呼ばれていたらしい。なるほど。全体的に不思議っ子なスタイル。姉妹と閉鎖的な世界、お城、ジャム、おまじない……ファッションや小物なんかにも通用する世界観。好きな子はとことん好きになる本だと思う。女の子を夢中にさせる要素がもりもり。
主人公の少女の狂気に早く気付けていたら、このお話はとても怖いものになっていたんだろうけれど、十歳くらいの女の子を想像していたから最後まで可愛く読んでしまった。十八歳にしてあのしゃべり口調はおかしいと思って見ないフリをしていたが、作者は意識しておかしくしていたんだろうなあ。
ただ、村の人たちが不自然なくらい差別していたけれど、お姉ちゃんの冤罪だけで、苛めのような差別になるのかしら。
可愛さ満点で素敵なお話だったけれど、お話の展開とか背景にところどころボンヤリした部分もあって釈然としなかった……。




20120222 //

■「エンデュミオン・スプリング」
マシュー・スケルトンのファンタジー長編。
ファンタジーっていうよりも、ファンタジーな本をめぐる歴史サスペンス!
現代のオックスフォード図書館と、活版印刷が発明された当時のグーテンベルクの物語が交互に挿入されている。不思議なのは「エンデュミオン・スプリング」と名のついた本だけで、現代も過去も至って現実的な世界で現実的に解決される。装丁は素敵だけど、子供むけのファンタジーじゃないなあ。
むしろこの話の魅力は1450年ドイツを調べつくして書かれた、生き生きとした人々の暮らしにあると思う。あと活版技術の発展した史実に則ってフィクションを滑り込ませているところ。
描写が精密、下調べが物凄いなあ、と思ったけれど、お話自体はあんまり派手じゃなかったなあ。過去主人公エンデュミオンと現代主人公ブレークの間にも特に繋がりのようなものはないし、追跡者にしても唐突に第三者が登場して意外性を吹っ飛ばす感じだった……かな。「現実的なはてしない物語」、というとかなり乱暴な言い方ですが、ファンタジーとして読むと肩透かしを喰らう。もう少しチビッコ向けのサービス精神があっても良かったと思う。

■「まともな家の子供はいない」
津村紀久子さんのアグレッシブな家族小説(笑)。この人の作品にはアグレッシブという言葉が似合いますなあ。
主人公は受験勉強を控えた中三の女の子。彼女のお父さんは、今の日本でじわじわ増えている無職のオヤジで、暴力的ではないし基本的に無害なんだけれど一日中家にいる。
主人公の友達もみんな親に対して深刻な問題を抱えている。この小説のすごいところは親近感の沸く津村さん文体でおそろしく暗い家族問題を徹底的に描き出しているところ。中学生らはものすごくクールで、冷めた観察眼でお父さんたちやお母さんたちを見ている。雰囲気としては全く恐ろしくなく、痛快に怒りまくっている小説だけれど、とても恐ろしい題材を取り上げている。日本が滅ぶとしたら、その原因の一端はこういった問題が担いそうですな。子供を持つことになったりしたときに、肝に銘じておくために読む本。おすすめ。

■「愚の骨頂」
マツコ・デラックスさんと中村うさぎさんの往復書簡。雑誌連載されていたものを単行本化したそうです。装丁が美しい。世間を賑わせているお二人の往復書簡ですが、内容はかなり真面目。都知事の差別発言にも言及しているし、どうしてお二人が自虐行動を取るのかについても深く語られています。ただ手紙形式で書いているために一言で伝わらないところを丁寧に説明したり、自分の考えを詳しく解説することに文字数を割いたりしていて、結論という結論はあんまり出ていないように思います。
女性やセクシャルマイノリティの人々について考えるきっかけを与えてくれる本。結論は各自で考えるようにって感じかな。

■「ベルカ、吠えないのか?」
これも歴史の下調べが秀逸な作品。すごいよね、四頭の犬から世界各国に枝分かれした子孫たちの交錯を自然に物語ることができてて。犬たちの台詞はあるものの心情吐露を深く書かないで、事実だけで読者の感情を動かそうとしている。誰が可哀想・悲しい、ではなくて、物語の流れを追った先に感情が沸くというか。
作中の犬には飼い主につき従わなければならないという認識があって、ほとんどの犬が人間に飼いならされたままに死んでいく。しかし物語の進むにつれて、犬は人間の手のうちから離れて犬として生命を謳歌するようになる。それは物語の中盤から出てくるヤクザの女の子にも言える。女の子がストレルカの名前を取ったのは自由を模索する犬とともに自分も自由のために戦っていたからなんだ……っていうことを小説内では行動や歴史事件を淡々と書くことで読者に伝えようとしている。
本篇には書かれていない主張。うーん、すごい技巧だわ……ちょっと「百年の孤独」に似ている。
歴史が苦手なわたしとしては、ソ連・アメリカのいがみ合いが酷かった、ということしか分からなかったんだけど(マジで)、もう一度歴史を勉強して読みなおしたい。
下調べも秀逸だけど、お爺さんや犬たちの戦闘シーンも見ものです。体系的なストーリーだけど、一つ一つのアクションを具体的に描ける作家でもあるんだなー。

■「向日葵の咲かない夏」
道尾秀介さんのミステリー。某書で紹介されていたので読みました。イジメからの首つり自殺や動物虐待。時たまニュースで話題になる社会問題を発端として、この二つとは対極に位置するような「生まれ変わり」の要素を入れたミスティックな小説。被害者が殺人事件解決の誘導をするとは、なんだか奇妙なもんですね。
初めて読んだ道尾さんの小説だったんですが、登場人物の視点が上手く切り替わったりして物語の内容が把握しやすい、親切な小説で良かった。だまされたけど。
サプライズなお話なので、あまり本の内容に言及したくないんですが、読み終わって一つ気になったこととしては、「それじゃあどうして岩村先生は自宅の近くでミカを発見できたのだろう」ってことだけど……たぶんここにも叙述トリックがあるんだろうなあ。良くできたミステリーでした。内容に深く触れられないのが残念。ぜひ読んでみてください。

■「偶然の音楽」
ポール・オースターの長編小説。今回はギャンブルをきっかけに、相手のために自分を犠牲とする精神、相手のためにすべてを投げうつ覚悟を決めた男の物語。オースターを三冊読んできて思ったのは、主人公は最後、すべてを悟った賢者のような思考を持つということ(そうじゃない作品もあると思いますが)。
長い苦行の末に自分という存在に疑問を持ち叩きのめされ、観念的な人間になっていくところが良い。ちゃんとそうなるための過程が描かれている。作者が独善的な理論を振りかざしているわけではないからムカムカしない。
モチーフのギャンブルは物語の導入でしかないんだろうな、と思って読んでいたら案の定で、それどころか、その後の壁の石を積む作業も導入でしか感じられなくて、オースターの書きたかったことはポッティが労働小屋を出て行ってから後にぎゅっと凝縮されていた。酒場からのラストは大体想像がついてしまったけれど、それでも突き抜けた話だったな。酒場での、自分の良心に問いかけない労働夫にナッシュの心情吐露がまさしく全ての人に共通する話題。読んでいて自分の生き方を考え直す必要があると感じた。
オースターの登場人物はどんなに没個性的なキャラでもどこかしらお洒落な雰囲気が漂っているけれど、今回はジャック・ポットの少年らしさに惹きつけられた。繊細だけど強がってる感じ。わざと軽口の発言をしているところ。萌えの観点からみても、良いですなー。






2011年4月4日〜2012年2月22日